Inchgower 14 Years Flora and Fauna Series
潮の香りが後を引くベルのキーモルト
『インチガワー14年 動物と花シリーズ』は、華やかな香りのスペイサイドと力強い味わいのハイランドの中間的な特徴を持ち、シングルモルトとして出回ることが少ない(総生産量の1%)。「ベル」の他にも、「ホワイトホース」や「ジョニーウォーカー」の原酒としても使われている。「花と動物シリーズ」とは、UD社(ユナイテッド・ディスティラリーズ社:現ディアジオ社)が所有する蒸留所のシングルモルトウイスキーを、それぞれの蒸留所にちなんだ花や動物をラベルに描いてリリーズしたもの。「インチガワー14年」には、ハイランドでよく目にするオイスターキャッチャー(ミヤコドリ)が描かれている。
色は琥珀色で、香りは重厚スモーキーさがありオイリー。口に含むと穏やかで全体的に甘く、レモンピールや蜂蜜、バタースコッチなど、リッチでクリーミーなテイスト、潮の香りもあって後を引く。本来の味わいを愉しむために、まずはストレートで。
・インチガワー蒸留所のこと
スペイサイドは比較的狭いエリアながら、テイ川に次ぎスコットランドで2番目に長いスペイ川流域を中心に、50近くの蒸留所が集中している。スペイ川が注ぐマレー湾の河口から東へ約8km、東ハイランドの境界線にかつてニシン漁で栄えたバッキーという小さな港町がある。インチガワー蒸留所は大麦畑に囲まれた高台に、バッキーの町を見おろすように建っている。スペイサイドで唯一、海にほとりにある蒸留所である。
インチ(inch)とはゲール語で「鳥」とか「川のそばの草地」といった意味で、ガワー(gower)とは同じく「山羊」の意味。つまり「川のそばにある山羊の放牧地」となる(しかし、”花と動物シリーズ”のラベルには山羊は使われおらず、ハイランドの海岸で棲息するオイスターキャッチャー(ミヤコドリ)が描かれている。
インチガワーには前身となる蒸留所があり、1825年にジョン・ウィルソンによって設立されたトヒニール蒸留所がそれである。前年は酒税法の改正により、ザ・グレンリベットが政府公認第一号蒸留所となった年で、いわばウイスキーの転換期の頃だった。バッキーの町から十数km離れたカレン近郊のリントミルに建てられ、1832年にはアレクサンダー・ウィルソンに引き継がれた。
しかし1860年頃には、慢性的な水不足で休業せざるを得ない状況に陥り、重ねて地代のことで地主と揉めたこともあり、1871年に現在の場所へ移り名前もインチガワー蒸留所と変え操業を始めた。トヒニール蒸留所は閉鎖となった。しばらくはウィルソン&Co社によって運営されたが、1936年に経営不振により倒産してしまう。蒸留所はバッキー町議会に買い取られ、インチガワーはスコットランド唯一町議会がオーナーという珍しい経営形態の蒸留所となる。しかし町議会が設備投資をすることで収益も改善、2年後の1938年にはアーサー・ベル&サンズ社に6,000ポンドで売却される。この買収は、ブレンデットウイスキー「ベル」の原酒確保が目的で、以降インチガワーは重要なキーモルトとなっている。
1966年には、ポットスチルを2基から4基に増設し増産体制を整える。その後ベルは、新社長のレイモンド・ミケルのリーダーシップもあり、10年間で売り上げを8倍まで伸ばし、1978年には英国においてスコッチブレンデットウイスキー№1を記録する。そんな矢先の1985年、アーサー・ベル&サンズ社は敵対的買収によってギネスグループ社に合併される。さらにギネスグループ社は、1987年にDCL社(ディスティラーズ・カンパニー)を買収しLUD社(ユナイテッド・ディスティラーズ)に改組される。1997年にはグランドメトロポリタンと合併してディアジオ社となり、インチガワー蒸留所も現在に至るまで同社の傘下となっている。
現在のインチガワー蒸留所の仕込みは、ワンバッチ麦芽8.4トン。かつては蒸留所内でフロアモルティングを行っていたこともあるが、現在はディアジオ社が所有しているモルティングの施設からノンピート麦芽を仕入れている。仕込み水は、バッキーの町の南側にあるメンダフヒルズの泉から引いている。
マッシュタン(糖化槽)はセミロイタータン。インチガワーでは、あえて清澄麦汁ではなく、クラウディ(濁った)なままの麦汁を使用。これは「ベル」のキーモルトに求めているのがエステリー(甘く華やかな香り)ねモルトではなく、オイリーな感触のあるナッティで複雑な風味の原酒のためだからである。
ウォッシュバック(発酵槽)はオレゴンパイン製で容量約40,000リットルのものが6基。発酵時間は48~53時間と短めに設定。これもスパイシーな風味を与えるため、華やかな香味が生み出される前に発酵を終わらせる。
ポットスチルはずんぐりとしたストレートヘッド型。初溜(容量:12500リットル)と再溜(同:12,500リットル)それぞれ2基ずつ計4基が設置されている。ここでも原酒にエステリィな風味を与えないため、ミドルカットも70%で始め下は55%でカットしている。低めにミドルカットすることで、クリーンでフルーティな純度の高いモルトではなく、ナッティでフルーティな原酒に近づくことができる。巨大な熟成庫は、6万樽の貯蔵が可能。珍しいのは、インチガワーだけでなく近隣の蒸留所の原酒も預かり熟成していることだ。
Data
所有者:ディアジオ社
所在地:Buckie,Banffshire
URL: -
創業年:1824(1871)年
蒸留器:ストレートネック型(初×2、再×2)
アルコール度数:43度
容量:700ml
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