焼酎のこと
芋・麦・米、それぞれの個性が響き合う一杯
焼酎は、日本を代表する蒸留酒のひとつであり、清酒(日本酒)とは異なる製造工程と風味を持つ酒類です。酒税法上では「蒸留酒類」に分類され、ウイスキーやブランデー、ウォッカなどと同じカテゴリに属します。焼酎は、発酵させた原料を蒸留することでアルコール分を抽出するため、醸造酒である日本酒とは根本的に異なる製法を持っています。
焼酎には大きく分けて「甲類焼酎」と「乙類焼酎(本格焼酎)」の2種類があります。甲類焼酎は連続式蒸留機を用いて高純度のアルコールを抽出するため、クセが少なくクリアな味わいが特徴です。チューハイや果実酒のベースとして使われることが多く、価格も比較的安価です。一方、乙類焼酎は単式蒸留機を使用し、原料の風味を残した芳醇な味わいが魅力です。芋、麦、米、黒糖、そばなど多様な原料が使われ、地域性や製造者のこだわりが色濃く反映されます。

焼酎の起源には諸説ありますが、11世紀頃の東南アジアや中近東で蒸留酒が造られていたことが確認されており、それが琉球や対馬を経由して日本に伝わったと考えられています。日本国内で焼酎が飲まれていた最古の記録は、1559年に鹿児島県の郡山八幡神社で発見された落書きで、「施工主が焼酎をふるまってくれなかった」と記されており、当時すでに南九州では焼酎が一般的に飲まれていたことがわかります。
製造工程において、乙類焼酎はまず麹を作ることから始まります。米麹や麦麹、黒麹などを用いて一次仕込みを行い、酵母を加えて発酵させます。次に原料(芋、麦など)を加えて二次仕込みを行い、発酵が完了したもろみを蒸留します。蒸留方法には「常圧蒸留」と「減圧蒸留」があり、常圧では力強くコクのある味わいに、減圧では軽やかですっきりとした風味に仕上がります。蒸留後は貯蔵・熟成を経て瓶詰され、出荷されます。
焼酎の魅力のひとつは、その多様な飲み方にあります。ストレート、ロック、水割り、お湯割り、炭酸割りなど、飲み方によって香りや味わいが大きく変化します。特にお湯割りは、芋焼酎などの芳醇な香りを引き立てる飲み方として人気があります。また、焼酎は糖質ゼロでプリン体も少ないため、健康志向の人々にも支持されています。
地域ごとの焼酎も個性豊かです。熊本の「球磨焼酎」、長崎の「壱岐焼酎」、沖縄の「琉球泡盛」などは、それぞれの土地の原料と風土を活かした本格焼酎として、地理的表示(GI)にも登録されています。これらは単なる酒ではなく、地域文化や歴史を体現する存在でもあります。

現代では、焼酎は国内外で広く親しまれており、輸出も増加傾向にあります。2000年代前半には「本格焼酎ブーム」が起こり、森伊蔵、魔王、村尾といったプレミアム焼酎が注目を集めました。これにより、焼酎は単なる庶民の酒から、嗜好品としての地位を確立するに至りました。
焼酎は、原料、製法、地域、飲み方によって無限のバリエーションを持つ、奥深い酒です。日本の風土と職人の技が生み出すその一杯には、歴史と文化、そして造り手の情熱が込められています。焼酎を知ることは、日本の酒文化を知ることでもあり、味わうたびにその奥行きに魅了されることでしょう。