スペイ湖を源に、ハイランドを通りマレー湾に注ぐスペイ川。 スコットランドではテ川に次いで2番目に長く（全長約172km）、最も急流の河川としても知られる。スペイサイドとはこの流域のことをいう。

ノッカンドゥ蒸留所

もともとスペイサイドは、ハイランドの一部として分類されていた。 しかしハイランドが余りにも広大で、蒸留所がスペイ川流域に集中（スコットランドにある蒸留所の半数近く）していることや、「グレンフィディック」や「ザ・マッカラン」といった知名度の高い蒸留所が多いこともあって独立した地域として分類された。

「ノッカンドゥ蒸留所」はスペイ川中流域の左岸側、木立に囲まれた丘の上からスペイ川を見下ろすように建っている。近隣には「カーデュ」や「タムドゥー」などの蒸留所もある。 ノッカンドゥとはゲール語で「小さな黒い丘」とか、「小さな黒い塚」という意味。

創業は1898年。エルギンの酒商イアン・トンプソンの長年の、悲願により建設された。 パゴダ屋根が印象的な建物の設計は、高名な建築家のチャールズ・ドイグ。翌年5月よりウイスキー製造が開始されるが、1900年にウイスキー不況により蒸留所は閉鎖されてしまう。1904年、蒸留所はW&Aギルビー社によって3,500ポンドで買収されウイスキー造りを再開。 1962年、W&Aギルビー社はユナイテッド・ワイン・トレーダーズ社などと合併、インターナショナル・ディスティラーズ＆ヴィントナーズ（IDV）社が設立され蒸留所はその傘下となる。実際の蒸留所の運営はIDV社傘下のジャステリーニ&ブルックス社があたり、現在まで同社の主力商品「J&B」のメイン原酒となっている。

1968年にはポットスチルを2基増設し4基となり、蒸留所内で行っていたフロアモルティングが廃止される。1972年には、IDV社がグランド・メトロポリタン・グループの一部となり、1977年からノッカンドゥはシングルモルトとして市場に参入する。1997年グランド・メトロポリタン・グループがギネス社と合併してディアジオ社となり、以来同社の傘下となっている。 2017年、蒸留所は大規模な改修を実施し、生産は一旦止められていたが2021年に工事は完了、夏頃に生産を再開した。現在は通常通りの操業をしている。

ノッカンドゥ蒸留所の現在の仕込みは、ワンバッチ麦芽4.4トン。原料となるモルトは、ディアジオ社系列のモルトスター（製麦業者）から仕入れている。 全体の70%がノンピーテッドで、30%をフェノール値45ppmのヘビリーピーテッドのモルトを使用している。

仕込み水にはカードナックの泉からクリアーな水を引き、この良質な軟水がノッカンドゥの魅力的な味わいに結びついているともいわれる。 マッシュタン（糖化槽）は、ステンレス製のセミロイタータン。J&Bの原酒として求められたのがナッティなフレーバーのため、清澄麦汁ではなくあえてクラウディ（濁った）な麦汁を抽出している。

ウォッシュバック（発酵槽）はダグラスファー製が8基。発酵に使用される酵母はマウリ社製及びピナクル社製のペースト状のもので、発酵時間は50時間のショートと100時間のロングのものをそれぞれ使い分けている。発酵時間50時間では重く複雑なテイストが得られ、100時間発酵では軽くすっきりとしたテイストが得られると考えられている。

ポットスチルは初溜が太いネックのランタンヘッド型2基（容量：10,000リットル）と、再溜がスレンダーなネックのバルジ型2基（同：6,930リットル）の計4基が設置されている。加熱方式は蒸気による間接加熱方式，コンデンサーは屋外設置のシェル&チューブ方式を採用。

熟成には、5棟のウェアハウスに伝統的なダンネージ式と貯蔵容量に優れた近代的なラック式がある。「ジャックダニエル」や「メーカーズマーク」のバーボン樽を主に使用しているが、約1割はシェリー樽を使いミックスさせている。花のようなモルトと呼ばれるが、そのほとんどはブレンド用に回されシングルモルトとして出荷されるのは1割程度と僅かである。ウイスキーにはキャラメル着色せず、ナチュラルな味わいが重視されている。