「三岳酒造株式会社」は、1958年（昭和33年）に鹿児島県屋久島町で創業された焼酎蔵で、屋久島の自然とともに歩んできた歴史を持ちます。初代社長・佐々木一雄氏（※）が、姶良郡の粟野酒造会社を買収し、屋久島へ移転して設立したのが始まりです。社名の「三岳」は、屋久島の中央にそびえる三つの名峰――宮之浦岳、永田岳、黒味岳――に由来し、島の象徴ともいえる自然の力を焼酎造りに取り入れる姿勢を表しています。

「三岳酒造」の焼酎造りの最大の特徴は、屋久島の清らかな天然水を使用している点です。屋久島はユネスコの世界自然遺産にも登録されており、年間降水量が非常に多く（※2）、山々から湧き出る伏流水は「日本名水百選」にも選ばれるほどの質を誇ります。この水は、焼酎の仕込み水や割り水として使われ、まろやかで雑味のない味わいを生み出す重要な要素となっています。

原料には、鹿児島県産のさつま芋「黄金千貫」と米麹を使用。麹には白麹を採用しており、クセの少ないすっきりとした味わいに仕上がるのが特徴です。製造工程では、一次仕込みで米麹と酵母を用いてもろみを発酵させ、続いて蒸した芋を加えて二次仕込みを行う「並行複発酵」の手法を採用。温度管理や発酵期間にも細心の注意を払い、安定した品質の焼酎を造り続けています。

また、芋の選定にもこだわりがあり、傷みや虫食い、泥かみなどを一つひとつ丁寧にカット・トリミングしたうえで蒸し、発酵に最適な温度まで冷却するなど、手間を惜しまない工程が品質の高さを支えています。微生物を相手にする麹づくりは特に難しく、気温や湿度、原料の状態によって日々変化するため、職人の経験と感覚が重要になります。

「三岳酒造」の焼酎は、屋久島内でのシェアが90％以上を占めるほど地元に根ざしており、かつては焼酎ブームの影響で“幻の焼酎”と呼ばれるほど入手困難な時期もありました。2011年には工場を新設し、生産量を倍増させることで安定供給を実現。現在では全国でも広く親しまれる銘柄となっています。

自然の恵みと職人の技術が融合した焼酎造りを続ける「三岳酒造株式会社」は、屋久島の誇りであり、芋焼酎の魅力を全国に伝える存在として、今もなお進化を続けています。