〇1999年、長らく焼酎造りを休止していた萬膳酒造は、四代目・万膳利弘氏の手によって霧島山奥の人里離れた地に新たな蔵を構え、焼酎造りを再開しました。この場所は、天然のヤマメが棲む清流「手篭川」近くで、まさに自然と向き合う環境。ここで再び焼酎造りを始めるという決断は、単なる事業再開ではなく、“焼酎造りは自然との対話”という哲学の表れでもあります。

〇萬膳酒造は現在でも木樽蒸留器を使用しており、これは非常に珍しい伝統技法です。木樽蒸留によって生まれる香りは、バニラやココナッツのようなふくよかさを持ち、他の芋焼酎とは一線を画す個性を生み出しています。

〇萬膳酒造の焼酎は「萬の膳（よろずのぜん）」という言葉に込められた、“すべての食事に寄り添う酒”という理念のもとで造られており、これは単なる味の追求ではなく、食文化への敬意でもあります。

1922年（大正11年）：

鹿児島県霧島市にて創業。自然豊かな霧島山系の地で、芋焼酎造りを始める。創業当初から手造り麹やかめ壺仕込みなど、伝統的な製法を守り続けていた。

1969年（昭和44年）：

三代目当主が急逝。これを機に酒造りを一時休止し、製造は委託へと移行。以降約30年間、焼酎の製造は行われず、「萬膳酒店」として酒類販売に専念する。

1999年（平成11年）：

四代目・万膳利弘氏が蔵を再興。霧島山奥の清流「手篭川」付近に山小舎の蔵を新設し、焼酎造りを再開。黒瀬杜氏の名匠・宿里利行氏の技術指導を受け、伝統製法を継承する。

2000年代前半：

代表銘柄「萬膳」が焼酎愛好家の間で高く評価され、“幻の焼酎”として注目を集める。少量生産ながらも品質重視の姿勢が支持され、入手困難な銘柄として知られるようになる。

2000年代後半：

黄麹仕込みの「萬膳庵」、白麹仕込みの「真鶴」など、個性豊かなラインナップを展開。それぞれ異なる香味を持ち、焼酎ファンの間で高い人気を誇る。

現在：

「萬膳」「萬膳庵」「真鶴」などの銘柄を中心に、伝統と革新を融合させた焼酎造りを継続。霧島の自然と向き合いながら、手仕事による本格焼酎を世に送り出している。