くぼた せんじゅ
2026.03.22
地酒ブームを牽引した蔵が造る淡麗辛口の吟醸酒
『久保田 千寿』は、朝日酒造が掲げる“食事と寄り添う酒”という哲学を最も端正な形で体現した一本です。淡麗辛口の美学を追求しながらも、ただ軽いだけでは終わらない、米の旨味と香味の調和を丁寧に磨き上げた味わいが特徴です。
第一印象は、控えめで上品な吟醸香。華やかさを誇示するタイプではなく、穏やかに立ち上る香りが食卓の空気を邪魔せず、むしろ料理の香りを引き立てます。口に含むと、柔らかな口当たりの中にすっと伸びるキレがあり、米の旨味が静かに広がりながらも後味は驚くほど軽やか。雑味のない透明感があり、飲み疲れしない清潔な酒質が魅力です。
また、「千寿」は久保田シリーズの中でも“基本の一本”とされ、日常の食卓から特別な席まで幅広く活躍します。刺身や焼き魚、出汁を生かした和食との相性は抜群で、料理の味わいを損なわず、むしろ一段引き上げるような存在感を持っています。冷酒ではシャープなキレが際立ち、常温では旨味がふくらみ、燗にすると柔らかさが増すなど、温度帯によって表情を変える懐の深さも魅力です。
“飲むほどに飽きがこない”。その言葉を体現するように、久保田 千寿は派手さよりも誠実さ、華美さよりも品格を重んじた一本として、多くの日本酒ファンに長く愛され続けています。料理とともに静かに寄り添い、食卓の時間を豊かにしてくれる、まさに“名脇役”と呼ぶにふさわしい存在です。
■飲み方あれこれ!!
涼冷え(15℃):
涼冷えでは、久保田 千寿の持つ淡麗辛口のキレが最も美しく際立ちます。香りは控えめで清らかに立ち上がり、口当たりは軽快。米の旨味がすっと伸びながらも後味はシャープで、食中酒としての完成度が際立つ温度帯です。
常温(20℃):
常温に近づくと、香りはややふくらみ、米の旨味が穏やかに広がります。冷酒よりも柔らかく、落ち着いた印象で、久保田 千寿の“素直な旨味”が最も自然に感じられる飲み方です。料理との調和も良く、長く飲んでも疲れません。
ぬる燗(40℃):
ぬる燗にすると、辛口のキレはそのままに、旨味が丸みを帯びてふくらみます。口当たりは柔らかく、後味はすっきり。温めることで雑味が消え、酒質の清らかさがより際立つ、意外なほど相性の良い温度帯です。
おすすめのマリアージュ
●刺身(白身魚):
淡麗辛口のキレが魚の甘みを引き立て、香りを邪魔しないため。
●焼き魚(塩焼き):
常温やぬる燗の柔らかい旨味が、焼き目の香ばしさと塩味に寄り添うため。
●出汁を使った料理(おでん、茶碗蒸し):
控えめな香りと透明感のある味わいが、出汁の旨味を損なわず調和するため。
●天ぷら(特に海老・キス):
涼冷えのシャープなキレが油を軽やかに流し、素材の甘みを引き立てるため。
▶「朝日酒造株式会社」のこと
「朝日酒造株式会社」は、1830年(天保元年)に屋号「久保田屋」として創業した、越後長岡の地に根ざす老舗酒蔵である。創業当時は天保の改革や飢饉の時代であり、米の確保すら困難な状況の中で酒造りを続けたと伝えられている。1920年(大正9年)には株式会社として正式に設立され、以降は新潟の酒文化を牽引する存在として発展してきた。
明治期には「朝日山正宗」を発売し、地元で“朝日山の酒”として親しまれるようになる。その後、昭和後期に大きな転換点が訪れる。1980年代、4代目社長の平澤亨が新潟醸造試験場の元場長・嶋悌司氏を工場長に迎え、酒造りの方向性を大きく刷新したのである。それまでの濃醇旨口から、現代の食生活に合う淡麗辛口へと舵を切り(※)、その象徴として1985年に「久保田」を発売。これが全国的な淡麗辛口ブームを牽引し、同社の名を一気に広めることとなった。
⇒淡麗辛口へと舵を切り(※)
〇1980年代、4代目社長・平澤亨は、新潟醸造試験場の元場長・嶋悌司氏を工場長に招聘。当時主流だった濃醇旨口から、現代の食生活に合う淡麗辛口へと酒質を大きく転換した。この決断が1985年の「久保田」誕生につながり、全国的な淡麗辛口ブームを巻き起こす。この改革は「東京を目指す」という明確な戦略のもと行われ、朝日酒造の全国的な飛躍の原動力となった。
「朝日酒造」の酒造りの特徴は、「品質第一」と「伝統と革新の融合」を掲げる姿勢にある。麹づくりや発酵管理では手仕事を重んじつつ、最新の温度制御技術や自社開発の微細な管理システムを導入し、安定した高品質の酒を生み出している。また、大小さまざまな発酵タンクを使い分け、銘柄ごとに最適な醸造条件を追求するなど、緻密な酒造設計が行われている。
さらに、同社は地元農家と連携した酒米栽培にも積極的で、農業生産法人「あさひ農研」を設立し、酒米の試験栽培や品質向上に取り組んできた。越後の豊かな水系と良質な米を活かし、地域とともに歩む酒造りを続けている点も大きな特徴である。
代表銘柄「久保田」シリーズは、淡麗辛口の美学を追求した酒として知られ、特に「萬寿」「千寿」「百寿」などは全国的な人気を誇る。また「朝日山」や「越州」シリーズなど、多様なラインナップを展開し、伝統的な味わいから革新的な酒質まで幅広く手がけている。
創業から約200年、地域文化の保全や自然環境保護にも力を注ぎながら、常に新しい酒造りに挑戦し続ける「朝日酒造株式会社」。その歩みは、越後の風土と人々の営みを映し出す、日本酒文化の象徴ともいえる存在である。
▶「朝日酒造株式会社」の歴史(年表)
1830年(天保元年):
平沢興三郎が現在の新潟県長岡市朝日で酒造業を開始し、屋号を「久保田屋」とする。天保の改革期で米が貴重な時代であり、酒造りは困難を伴ったが、地域に根ざした酒蔵として歩みを始める。
1920年(大正9年):
「朝日酒造株式会社」を正式に設立。初代社長に平澤與之助が就任し、企業としての基盤を固める。
1921年(大正10年):
銘柄「朝日山正宗」を発売。地元で“朝日山の酒”として親しまれ、後の主力ブランドの礎となる。
1929年(昭和4年):
琺瑯タンクを導入し、木桶仕込みを段階的に廃止。衛生面と品質の安定化を図る近代化が進む。
1972年(昭和47年):
「東京出張所(現・関東支店)」を開設し、販路を県外へ拡大する。
1974年(昭和49年):
「第2号蔵」が竣工し、自醸酒100%体制を確立。生産能力と品質管理が大きく向上する。
1980年(昭和55年):
販売会社「朝日商事株式会社」を設立し、流通体制を強化する。
1985年(昭和60年):
代表銘柄「久保田」を発売。淡麗辛口の酒質が全国的なブームを牽引し、同社の名を一躍全国区へ押し上げる。
1986年(昭和61年):
精米棟が竣工。さらに「越路町ホタルの会」が発足し、自然環境保護活動を開始する。
1989年(平成元年):
創立70周年事業として越路町「もみじ園」の修復造成に協力し完成。地域文化の保全に寄与する。
1990年(平成2年):
農業生産法人「有限会社あさひ農研」を設立し、酒米の試験栽培を開始。「酒造りは米作り」の理念を実践する体制が整う。
1992年(平成4年):
「調合棟」が竣工し、ブレンド技術の精度向上を図る。
1995年(平成7年):
「朝日蔵」が竣工し、「自然環境保護の会」を設立。環境保全活動をさらに強化する。
1997年(平成9年):
「越路もみじの会」が発足し、貯蔵棟「もみじ蔵」が竣工。地域との協働が深まる。
1998年(平成10年):
貯蔵棟「ほたる蔵」が竣工し、貯蔵環境の多様化と品質向上が進む。
1999年(平成11年):
復活米「千秋楽」を使用した純米大吟醸「越州」を発売。酒米研究の成果が商品化される。
2000年(平成12年):
「越州」シリーズを本格展開し、創立記念日に全社員で田植えを行うなど、農業との連携を深化させる。
2001年(平成13年):
財団法人「こしじ水と緑の会」を設立(2010年に公益財団法人へ移行)。地域の自然保護活動を体系化する。
2002年(平成14年):
「製品倉庫」が竣工し、物流体制が強化される。
2003年(平成15年):
「松籟閣」が国登録有形文化財に指定され、歴史的建造物として評価される。
2004年(平成16年):
新潟県中越地震で被災。復旧を進めながら酒造りを継続し、地域とともに再建を図る。
2006年(平成18年):
「社屋・製品工場」が竣工し、最新設備による品質管理体制が整う。
2009年(平成21年):
品質管理の国際規格「ISO9001」を取得し、品質保証体制を国際基準へ引き上げる。
2011年(平成23年):
「松籟蔵」が竣工し、貯蔵環境のさらなる多様化が進む。
2012年(平成24年):
貯蔵棟「いなほ蔵」が竣工し、熟成管理の幅が広がる。
2013年(平成25年):
「酒楽の里 あさひ山」「あさひ山 蛍庵」がオープンし、観光・文化発信拠点として機能する。
2015年(平成27年):
「朝日酒造 太陽光発電所」が竣工し、再生可能エネルギーの活用を開始する。
2018年(平成30年):
「松籟閣」が国の重要文化財に指定され、歴史的価値が再評価される。
2019年(令和元年):
「ISO 9001-HACCP」認証を取得し、食品安全管理体制を強化する。
2024年(令和6年):
「越路蒸留所」が竣工し、創立100周年を迎える。新たな蒸留技術への挑戦が始まる。
Data
生産者:朝日酒造株式会社
住所:新潟県長岡市朝日220-1
創業:1830(天保元)年
TEL:0258-92-3181
URL:http://www.asahi-shuzo.co.jp/(朝日酒造公式サイト・直接注文可)
特定名称:吟醸酒
原料米&精米歩合:麹米・五百万石50%、掛米五百万石・55%
アルコール度数:15.0%
酵母: ―
日本酒度:+5
酸度:1.1
容量:300ml(瓶)、720ml(瓶)、1800ml(瓶)
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