「西平酒造株式会社」は、奄美大島に根ざし、黒糖焼酎の伝統と革新を融合させた酒蔵です。1927年の創業以来、奄美の風土と文化を背景に、個性豊かな焼酎造りを続けています。

「西平酒造」のルーツは、沖縄・首里で泡盛を造っていた西平家にあります。大正時代、泡盛の販路を求めて喜界島に渡り、1927年（昭和2年）に奄美大島・名瀬へと移転し、焼酎造りを本格的に開始しました。太平洋戦争中には空襲により蔵が全壊するという苦難も経験しましたが、戦後すぐに再建。米不足の影響から泡盛に代わり、黒糖焼酎の製造に転じたことが、現在の酒造りの礎となっています。

焼酎造りの特徴としてまず挙げられるのが、国産米を使用した米麹と黒糖を原料に、常圧蒸留で仕上げる製法です。常圧蒸留によって素材の風味をしっかりと引き出し、黒糖の甘みとコクを活かした深みのある味わいを実現しています。また、仕込みには創業当初から使用しているカメ壺を用い、蔵の地下水を仕込み水として使用するなど、伝統的な手法を大切にしています。

さらにユニークなのは、音楽と焼酎造りの融合です。蔵人の多くがミュージシャンで構成されており、音楽を奏でるように焼酎を醸すという独自の哲学を持っています。貯蔵中の焼酎に音楽を聴かせる「Sonic Aging（ソニック・エイジング）」という手法も取り入れており、音の波動が熟成に与える影響を探求しています。蔵内には音楽ホールも併設され、ライブ演奏が行われることもあります。

また、デザイン面にも強いこだわりを持ち、瓶やラベルには奄美の自然や文化をモチーフにした意匠が施されています。たとえば、銘柄「珊瑚」では、瓶越しに奄美のサンゴ礁の写真が見えるように工夫されており、視覚的にも楽しめる商品となっています。

現在は4代目・西平せれな氏が杜氏を務め、「黒糖焼酎で世界と奄美を繋げる」というミッションのもと、国内外への発信にも力を入れています。伝統を守りながらも、音楽やデザイン、文化との融合を通じて、黒糖焼酎の新たな可能性を切り拓いているのが「西平酒造」の大きな魅力です。